
労災隠しとは 原因と労働現場での現状
労災隠しとは、事業主が労災事故の発生を隠すため、死傷病報告の届出を行わなかったり、虚偽の内容で届出を行うことを指します。
2019年1月、福岡県うきは市内の道路新設工事現場で起きた労働災害において、事業主が労災を隠し書類送検される事件が発生しました。
写真出展元:労働新聞社
ベトナム人技能実習生が実習中に怪我をし、10日間ほど休業したにも関わらず、事業主が報告義務を怠り、技能実習生が支援団体に相談したことで労災隠しの事実が発覚し、同社の代表取締役社長が書類送検されました。
代表取締役社長は治療費の本人負担分を立て替えたが、報告義務があることについては認識していなかったといいます。
同様の労災の報告義務違反による労災隠しは全国で発生しています。
労災隠しが発生する大きな理由として、企業イメージの低下を避けるためにこのような違反が起っていることが挙げられます。
今回の事件のような建設業では、前提として建設現場に関わる個々の下請会社を独立した事業として取り扱わず、現場ごとにおいて各下請会社を元請会社と一体とみなし、工事現場全体が一つの事業体として取り扱われます。この事業体(建設現場)の労災保険加入手続きは、原則として元請会社が行う事になっており、保険料の納付の義務も現場ごとの元請会社が負う仕組みになっています。
そのため元請け会社側は取りまとめる下請け会社で労災が複数発生し、労働基準監督署の監査が行われることにより、企業イメージが低下してしまうことを避けるために労災の虚偽の報告を行う、もしくは届出を行わないなどの違反を行ってしまったり、下請け会社側は労働災害を起こすことで元請け会社から仕事がもらえなくなるかもしれないと言う懸念から、やはり虚偽の届出や報告を行わないなどの違反が行われてしまうのです。
上記の事件では実習生が支援団体に相談したことで労災隠しの事実が発覚しましたが、技能実習が開始される前に行われるオリエンテーションなどで、社会保険や労働保険などに関する説明が十分に行われておらず、技能実習生の知識不足から労働災害の事実がなかったこととして処理されてしまっているケースも少なくありません。
当然これは重大な犯罪行為で、労災隠しの事実が発覚すれば、企業イメージの低下だけでは済まされません。
次の章では労働災害が発生した際の企業側の対応についてご説明いたします。
労働災害が発生した際の企業側の対応
労災保険は国が所管する「強制保険」で、労働基準法(第8章 災害補償、第75条~第88条)では、労働者が「業務上の事由により被った災害」 について、事業主は「補償」しなければならないと規定されています。
技能実習生も日本人従業員と同様に労災保険の対象になります。
労災保険の請求手続きは、技能実習生本人もしくはその遺族が行うことになっていますが、請求を行う際に実習実施機関(受け入れ企業)の証明が必要です。
実習実施機関は、被災した技能実習生から保険給付を受けるために必要な証明を求められた時には、速やかに対応しなければなりません。
また、技能実習生が自分で対応することが困難な場合、実習実施機関は手続きを行うことができるように助力する義務があります。(労災保険法施行規則第23条)
さらに、厚生労働省告示「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するため の指針」では、「請求手続を代行することその他必要な援助を行うように努めること」とされています。
出展:公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)『外国人技能実習生と労災保険』
技能実習生に対する事故後対応の流れ
技能実習生に対する事故後の対応は技能実習生が母国での休業を希望した場合など、状況に合わせ休業の申請や報告をする必要が出てきます。
大きく分けて下記の3つのパターンに該当することがほとんどです。
それぞれに求められる対応のフローをご説明させて頂きます。
■ 技能実習生本人が日本にて休業を希望し、休業後、実習を再開する場合
1. 療養給付
業務災害又は通勤災害による傷病により療養する際に関わる給付金です。
・療養の給付:労災病院や指定医療機関
・薬局等において、必要な療養(現物の給付)が受けられます。
※原則として治療費無料
・療養の費用:指定医療機関等以外の病院等で療養した場合に、その療養に要した費用が支給されます。
※原則として治療費用が戻ってきます
2. 休業保険の手続き
療養のために労働することが出来ず、賃金を受けない期間が4日以上にわたった場合に関わる保険内容です。
・休業4日目以降一日につき、「給付基礎日額」の60%相当額が支給されます。
※業務災害の場合、最初の3日間については、事業主の補償義務あり
・休業特別支給金:上記の休業(補償)給付支給対象となる休業一日につき、「給付基礎日 額」の20%相当額が支給されます。
※事業主の補償義務なし
・従って、休業4日目以降は、実質的には給付基礎日額の80%相当額が支給されます。
3. 保険会社へ連絡
保険の補償を使う際、保険会社へ手続きに関する連絡をします。
4. 監理団体へ連絡
監理団体へ事故の内容などの報告が必要です。
5. 中断した理由書と技能実習計画併せて技能実習機構(OTIT)へ提出
6. 復帰
上記の対応の中で療養の際、指定医療機関にかかれば療養給付(原則として治療費無料)の対象になります。
※指定医療機関か否かは下記のURLから検索することが可能です。
厚生労働省『労災保険指定医療機関検索』
■ 技能実習生本人が技能実習中断を希望し、一時帰国し、再入国後、技能実習を再開する場合
1. 監理団体から技能実習困難時届出書を技能実習機構(OTIT)へ提出する
2. 帰国するための航空券の手配・送迎(企業負担)
※技能実習修了時と同様の対応が求められます。
3. 帰国
4. 中断した理由書と技能実習計画併せて技能実習機構(OTIT)へ提出
・本人の希望時期に合わせて改めて技能実習計画の認定申請を行ってください。
5. 入国のための航空券の手配・送迎(企業負担)
・技能実習開始時と同様の対応が求められます。
6. 入国・再開
■ 技能実習終了を本人が希望し、帰国する場合
1. 監理団体から技能実習困難時届出書を技能実習機構(OTIT)へ提出
2. 航空券の手配・送迎(企業負担)
・技能実習修了時と同様の対応が求められます。
3. 帰国
まとめ
今回は事故が起こった場合に、受け入れ企業として必要な知識や対応方法を本記事では紹介させて頂きました。
最近では、技能実習生が実習中に事故に見舞われる事件が多く報道されています。
技能実習生本人が労災についての知識がないために労働災害の発生を支援団体も把握できていないケースも珍しくありません。
労災隠しが発覚すれば、企業は今後、技能実習を行うことができなくなるだけでなく、刑法上の責任を負うことになります。
前提として一番重要なことは実習現場において、労働災害を未然に防ぐための取り組みを受け入れ企業、監理団体、技能実習生などで行うことが大切です。
このような問題を起こさないために弊社も多くの対策を行っています。
次回、第3回では保険についてもう少し詳しくご説明させて頂きます。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。